釣竿の先にあるもの2


「―お前、変わったな」

久々に会った天然と軽い手合わせをし、泥まみれになったと娘に叱られた。こっぴどく。
とりあえず近くにあった井戸でせめて手と顔だけは洗おうと腰を下ろす。

リナは宿に用事があるらしく、「ガウリイを捕まえておいて」とだけ言い姿を消した。
スリッパで殴られるガウリイを眺めながら、夫婦漫才みてえじゃねえか、なんて。
決して思わなかったとも、ああ、思わなかった。似合いだとも思わなかった。

しかし…後で着替えになる古着でも買って、洗っておかねぇとなぁこの服…
どこまでごまかしきれるか、そんなことをつらつらと考える。

――恐ろしい程の剣の才。勝てるはずがねえ、手加減されてやがった。
こいつが剣を捨てようとした理由が、少しだけ分かる。

おかしいとは思った、伝説の剣の噂が途絶えている事。
一族でひた隠しにしていたに違えねぇ。
でもってあれか、内部で争ってやがったと。
リナが言うには異世界の魔族だってんじゃねーか?
あれに長年干渉されつづけた閉鎖的な人間の群れ。
剣を巡っての殺し合いでもしたんだろう。
逃げ出して捨てたくもなる――

ざばん、と気持ちの良すぎる音がしたので顔をあげると。
半裸になったガウリイが桶から直接水浴びをしているところだった。
ずぶぬれのズボンと、水が滴り落ちる長い金髪。

「…てめえ、やっぱ変わってねえ」
「?」
「リナが来んだぞ、その格好見せるつもりか?」
「あ、リナー!」

通報されかねない姿の天然が、何も無い方角に突然手を降り始める。

「何もねえぞ…?」
「なあ、おっさん」
「ん?」
「いい娘だな」

やがて、レイ・ウィングで飛んできたうちの鉄砲娘が見えて。
赤い顔で仕方なくヤツの着替えを持ってきたというので、
もう一度俺は釣竿を強く握りなおした。


―ヤツと酒を飲み交わそう。とっておきの、店の戸棚にあった、あの極上の酒で。



・・・・・・・かーちゃんにバレないように。

とーちゃん。がんばれ。
2010.06.27


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