ぱられる:いぢめられっこ


――梅雨。

これは悪魔かなんかが考えた季節なんだとおもふ。
窓を開ければ、湿気。
窓を閉めれば、熱ひ。

そんな最中に外に出る用事があるというのは、悪夢だ。
地獄の階層のどっかに、「365日梅雨地獄」とかあるような気すらする。
肌に張り付いた服が気持ち悪い。
ばたばたと手続きを終えたところであたし達はバテてしまい、
やむ得なくあたし達は公園の日陰のベンチを占拠したのである。

「ん~ちべたいっ!おいひっ!」

そんでもって、付け足すならばアイスを考えた人はきっと、神様だと言う事だ。

「あっついなあ・・・」
「今日行かないと色々間に合わないんだから仕方ないじゃない」
「す、すまん。休みがなかなか取れなくてなぁ」

さくさくと減っていくしろくまアイスさん。
トッピングされたフルーツも心許ない。
ああ、なくなってしまうのねアイスさん・・・。

「ガウリイ」
「やらんぞ」

「けち」
「けちじゃない、オレのアイスは分けられんだろ」

ひょいと持ち上げられたチョコアイスバーをまじまじと眺めた。なるほど。

「分かったわ、全部ちょーだい」
「鬼かお前は・・・」

本気で取られるでも思ったのか、あたしからアイスが遠ざけられた。
くうっ、食べれないともなると余計に食べたくなる…!

「なんで、ぱぴことかにしなかったのよ」
「ぱぴ?」
「真ん中でぱきって割って分けれるヤツ」
「ソーダバーみたいなやつか?」
「ソーダ・・・真ん中で折るアイス?」
「あれ何て言ったっけなぁ・・・」

目の前を走り過ぎていく小学生ども。
どこからあんな元気が沸いてくるのか、謎だ。
いや、あたしも昔はあんなんだったかもしんないけどさ…。

「なーリナ、オレは――」
「待った」
「?」
「どうせろくでもない事言うんでしょ?」
「そうでもないぞ?」

「ほら、アイス。溶けてる」
「あ」

ぱくっとアイスバーにかぶりつくガウリイ。
取るつもりなんかないのに、取るのを待っていたよーな気もする。

「あんたってマゾっ毛あるわよねぇ・・・」
「そぉーふぁ?」
「そーよ」

「リナのほーがあると思うけどなぁ・・・」
「は・・・?」

マゾっ毛などあるはずもない、
ま、まさか…スリッパで殴りすぎてついに頭がおかしくなった、とか。
いやいや、この暑さと湿気でついに脳にカビが生えたかヨーグルトになったか…。

「じゃあなんでこの熱い中、オレのくだらん用事についてきたんだ?」
「暇だから」

「ああ、そうか!」

ぽむっと手を叩きながら、ガウリイがそれはそれは嬉しそうに

「オレの事好きだからか!」
「訂正、あんたってサドだわ」

そのままあたしに、殴られた。


2010.06.24




ぱられる:いぢめられっこ2


――梅雨。

じめじめとして気持ち悪いのはまあ、いい。
冬は寒いから外に出たくないっ!と言いこたつに入り、
夏は熱いからお肌がどうだこうだと言いクーラーの無い空間に行きたがらない。
家に置いてきた我侭娘が問題だ。

「アイス買ってきてアイスっ!!」
「リナは行かないのか?」
「やだ」

なんて一方的な会話だろう、そうして彼の望みは簡単に打ち砕けた。
―ちょっとそこのコンビニじゃないか。
10mも歩かないじゃないか。
雨音に消えていくむなしい言葉達を、彼はただ見送った。

「・・・何アイスだ?」

携帯をポケットから出す。
無駄な電話は――怒られる。そうだった。怒られる。
いつも重要な話だけをしているつもりなのだが、彼女にとってはそうじゃないらしい。

「・・・戻ったら」

怒られる。間違いなく怒られる。
覚えてはいないが、種類を詳しく言われた…ような気がする。
ただ名前が無駄に長くて覚えてられないだけだ。
なんとかなんとかなんとか、なんとかなんとかー味、限定。
うん、ここまでは覚えている。



そうして彼は前にも後ろにも進めず、雨の中を立ち尽くした。
悩んでも仕方ないと割り切れるまで数分。


梅雨が何もかも悪い。
だから、アイス全種を買って帰ったのは仕方の無いこと。
怒られて外に締め出されたのも、仕方の無いこと――。


超かわいそう。
2010.06.26




ぱられるすれいやーず



オレは引き出しにあったお気に入りのマフラーを取り出した。
その隣にしまわれた、ピンクの花柄。
今時期だととっくにリナが「寒い」と駄々をこね、ふかふかと頬を染めながら
猫のようにその温もりに、顔を埋めていたものだ。

リナはもう―――これをつける事はない。


「なあ、こっちの方が似合うぞ?」
「いーの、あんたのお下がりもらうって約束でしょ?ほらほら!」

確かに、リナの手編みの新しいマフラーは、魅力的だった。
オレのをお下がりでリナが巻くってのも、まあ、その、嬉しい。
だけどもオレはいつものマフラーのリナを見慣れすぎているのか、
なんとも苦い気持ちになる。

「なあ、こっちの方が―」
「いーのいーのいーの」

「だってあたし今日誕生日だもん」

「は?!?!」
「どーせ何も用意してないでしょ?」

まただ、リナの勝ちだ。
誕生日なんて聞いた事もなかったオレの負け。
断れるはずがない、彼女はそうして狙いのものを必ず手に入れる奴だ。
新しいマフラーまで用意して、ソレを狙っていたのだろう。
でも何でオレの?新しいのを自分で使えばよかっただろう?

……リナのすることはいまいち分からん。
財布の中身の札の数を思い返しながら、指輪っていくらするんだろうなぁ、とか。
来年はどうしようかとか、遠い遠い未来の事を ほんの少しだけ考えた。


あら、久々・・・。
2010.09.13


RETURN