釣竿の先にあるもの


「剣の腕はいいんだけどね」

商談の途中、下の娘に偶然会った。
きっと普段の俺の行いがいいからだろう。
やけにウチの娘に似てるなとは思って見ていたが、本当にリナだとはな。
―なんていうかその、綺麗になった。
昔よりほんの少し背が高くなって、僅かながら胸も大きくなって。
ルナがまた胸でっかくなったって知ったら…言わないでおくべきだな。
髪も伸びたかもしれない、いや…同じぐらいだったろうか?
持ち合わせがあればメモリーオーブにでも記録しておきたいのだが。

「とうちゃん、き~てる?で、そいつとはぐれちゃってさ、この街にもう半日も無駄に…」
「聞いてる、聞いてるぞ。で、リナと二人で旅をしていておまえに手を出してないんだな」
「相棒だって言ってるじゃない。何をど~まちがっても、そーいう事にはならないわよ」

ぴこぴことストローで包み紙で遊びつつ、ほんのり顔を赤くしながら娘は顔を俯かせる。
俺に似て奥手だからなぁ…畜生め
どこの野郎だ?息の根を止めてやろう…とは思ったが
―天然のバカで、剣士で、光の剣と言えば。

「おいリナ、で…ガウリイとはどこではぐれたんだ?」
「そこの路地――って、あたしガウリイの名前言ったっけ?」

やっぱりか、という言葉を噛み潰しながら、釣竿を肩にかけた。

「まずは一発ぶん殴る」
「ちょ、ちょっと、とーちゃん!?そんなにあたし、怒ってないってば!」

久々に剣を握ってみたいと思ったが。
かーちゃんに怒られそうなので、止めておいた。


「もう一度飲みたいと思ってたんだよな、天然とはよ」

慌てていたリナが、「殺さないのね?」とほっと胸を撫で下ろすもんで、
つい少し本気になったとしても、仕方の無い事だ。
そして俺は間違いなくかーちゃんに叱られるのだ。
またあの日のように服を泥だらけにして。

とーちゃん、実はべた惚れ説
2010.06.18


RETURN