Re:スタート


地図を折りたたんで荷物袋に押し込む
すこし肌寒い風が頬を凪ぐ、日差しは暖かいのだが、どうにも春らしくない
だけども足元には花が咲き乱れていたりする、勘違いして咲いたようには見えない
春、なのだろう
自称保護者のガウリイは、ぽかぽかとした日差しに気持ち良さそうに目を細めている


「ガウリイ、次の街だけど――」
「その前にお客さんらしいぜ?」

青い瞳が、眠気など無かったかのように見開いている
恐るべし野生のカン・・・彼は剣を手にあたしを保護するべく前へ出る
茂みが揺れて、ありがちな盗賊さん達が次々と姿を現した
お鍋で武装してる奥のおっさんとかは、どーなんだろ…

「ば…」
「ばれちゃ~しかたねぇな、なんて言ったりするのかしら?」

「てめえ!」
顔を赤くして突っ込んできた盗賊A、がんばれ盗賊A!足でも引っ掛けてやろうかと後ろに下がる、こ~いうのはからかうのがまた楽しいのだ。

ひゅっ!

「はう」

――ぱさっ

あたしのちょっと手前で突然倒れる盗賊A

「ガウリイ?…って、あ。」
「ほら、これ」

「どんぐり?」

指弾、コレをはじいて額にでも当てたらしい。
そーいや前に…傷をつけてみろって言ったらこれ一つでやってみせたんだっけ。
実はちょっぴし練習もしてみたのだが、傷ともなると別、当てるだけなら出来るんだけど…
ん?
春なのになんで持ってるんだろーか、ってまさか、いやガウリイならありえるのだろうか?

「―ちょっと待ってそれ何時の!?」

「いつって、えーと、お前さんと会ったばっかりの頃だから・・・」
「・・・ガウリイ、それまだ持ってたりする?」
「おい、嬢ちゃんいい加減に―」
「うっさい!こっちは大事な話してんのよ!」
「っ・・・この野郎!!!」

「あたしの一生がかかってんのよ!!」

はたっと出てしまった妙なセリフに、あたしの顔が赤くなっていくのが分かった
盗賊さん達がドン引きする様子がちくちくと胸に突き刺さるようだ
だが、それとこれは別だ、今聞かないとまたうやむやにされてしまうっ!

「どんぐり、にか・・・?」
「おいリナ、どんぐりがどうしたんだ?」

「もってんの!?もってないの!?」

ごくっ、と喉が鳴る
―ガウリイは怯えた瞳で答えた

「な、ない 今ので最後だ」
「さ・・・探せっ!早く探しなさいっ!ほら、あんたらも!」
「俺達がか?!」
「んっんっんっ・・・あたしがあんたらの大好きなリナ・インバースだって言ったら、どおする?」

小さく咲いた、可愛い破弾撃(ボム・スプリッド)の花。

かくして、ゾンビのようになった盗賊さんとガウリイによるどんぐり探索が開始された
「女は分からん・・・」とぼやくガウリイに
「うちのカミさんもだ」と慰めあう姿がちょっぴし痛々しかった。
草根を掻き分けて探す男どもは友情に近い何かを芽生えさせたらしい――

「リナ、あったぞ!」
「でかしたっガウリイ!!」

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「なんだ、結局埋めるのか?」

盗賊さん達のアジトから拝借したスコップで即席の花壇を作った
ガウリイに岩をちょっと切ってもらってレンガにして囲う
たまたま持ってた肥料にもなる魔法薬をちょっと使ったのが痛手だが、
そんなに値の張るものでもないのでよしとしよう。
収入も多少はあった事だし…貧乏そーに見えたが、
なかなか趣味の良いコレクターだったようで懐は暖かい。
しばらくゆっくりと過ごすのもそうは悪くない。

「だってどんぐりでしょ?」

手についた土をぽむぽむと落しながら振り返ると、難しそうな顔をしたガウリイ。

「結局同じ事じゃないか」
「全然違うわよ?」


「3度目はあんたもすぐに思い出せるわ」


忘れないで、ここがあたし達のスタートだと。
そして―

「そろそろはっきりさせたい事があるんだけど、ちょっといい?」

泥だらけのあたしが何を聞いて、何をしたのかは
どうか聞かないでぷりーず


2010.05.30


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