誓い


「やめろぉっ!」

お前が目の前で倒れた時の事を オレは未だに夢に見る


カンヅェルとかいう魔族が、オレの負の感情を食らう為だけに
赤い光が、リナを貫く
あんなに小さなリナを、女の子を
痛みに弱いリナは光に何度も貫かれ―、その場に崩れ落ちた
あまりにも小さな音で、呆気なく

痛い、痛い、痛い、オレが『痛い』―――

「やめろっ!」

急所は外している、すぐに死にはしないだろう?
戦況が不利になるからか?
前を向け、敵を倒せ、生き残れ――

「やめろっ!」

動揺するな
敵の望むままに 絶望を与えるな
今までこんな事何度もあったはずだ
なのにどうしても リナから視線が外れない

「やめろっ!」

仲間なんかで割り切れるものじゃない

「やめろっ!」

守りたい
――オレの大切な人

「やめろぉぉぉっ!」

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ふわふわの栗色の髪に手を当てながら、それをくしゃくしゃとかき混ぜた
治療を終えた彼女は、小さな寝息で眠っている
猫みたいだな
軽いし、丸まってるし、顔なんてふわんと溶けるように笑ってて可愛い

このまま起きなかったら、ずっと看病してやってもいいだなんて思った
退屈じゃない気がする
でも出来ればこの瞳は開いていたほうが、オレは嬉しい

『ガウリイ、騎士は主君に仕え 国家と主君の為に有るものだ』

ふと、父親の声が聞えた

思いついたまま腰につけたままの剣を鞘から抜き出し、
リナの眠るベットに刀身を下にしてそれをたてかけた
髪を梳きながら、一筋を手に取る

「リナ」

「・・・ん」

まだ夢の中に居るだろう彼女を起さないように、そっと囁いた

「誓うよ、リナが倒れるなら、オレが先だ」

オレは髪に口付け、一生であるだろう主君に誓い
静かなそれはリナの微笑みに甘受される
一方的な受託

謙虚、誠実、正義、忠誠
弱者を守れ、強者には勇ましく、逃げることなく
盾となれ
矛となれ
騎士であることを、決して忘れるな


この微笑を絶やすぐらいなら
喜んでオレは死地へ向かおう

リナと生きる為に


2010.05.10


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