ひもろぎの君3


気がついたらぽつりと 一人庭に立っていた小さなあたし

居なくなった大好きな犬
散々泣いて、探して、待って、諦めかけて、たまに思い出して

やっと記憶の底に眠りについた、そんな頃
先週の土曜、ついこないだ10年ぶりにふらりと戻ってきたバカ犬は
何も変わりがないようで、そうでもなかった
とりあえず、殴っといたけど。

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「リナ、子犬が産まれたの それでー」
「いらない、もう飼ってるから」

犬なんていたの?と疑う同級生に、いるのよと答え手を振って別れると
あたしは自宅へと続く長い石段を駆け上がる
いるのよ、でっかい犬。
いい加減で、ぽわぽわしてる犬、色は黒・・・で、金髪?
ちっちゃい頃は犬ってあーいうもんだと思ってたんだけど
ねーちゃんもねーちゃんよ、さっさとあれが犬じゃないって教えてくれても…

「リナ、おかえり」
「たっだいまーガウリイ」

黒い尻尾をぱたぱたと動かしながら、
主人の帰りを待っていた犬っころが嬉しそうに手を振った

先週の土曜、ぼーっと自分の部屋で本なんか読んでたら
「リナ久しぶりー、オレ神様になったー」って言いながら後ろから飛びついてきた
「試験、難しかったぞ」だなんて、見た事が無いぐらい綺麗に笑ってたっけ

「なぁリナ、お前さんまたー」
「ストップ」

待て、をされた犬っころは尻尾は動きを止めてぱさりと音をたてて垂れた
あたしの言葉を待っている
ほんと、どっからどこまでも可愛い犬よねえ

「今日は何もしてないわ、買い食いすらしてないのよ」
「こないだはヤンキー狩りしてたじゃないか」

「いいか?お前さんは危機感が―」
「あるわよちゃんと、スタンガンも持ってたわよ」
「世間一般のぢょしこおせえってのはそんな物騒なもん持ってるわけ無いだろ」
「知らないの?嫁入り道具みたいなもんよこれって」
「そんな訳あるかよ・・・」

がくっと方を落として頭を垂れるガウリイ

「なぁ、リナ ところでそろそろ答えもらえないか?」
「―保留よあんなもの、そもそも何年前だと思ってるのよ」

「昔は可愛かったのになあ・・・なんていわないでよ?」
「いいや?」

「綺麗に、なったよ」

・・・お嫁さんになってあげるから帰ってきて、って叫んじゃった小さなあたし
もう少し考えて物は言うべきだわ
成仏しきれないどっかのバカが真に受けちゃったじゃない
結果よければすべてよしでもないんだからね?

まぁ、小さいかったから仕方ないけど


あたしの家は小さな神社をやっている
神社には樹齢ン千年の神木があって
最近、神様が生まれたようだ

きっとかわいい女の子がもうすぐお嫁に行くことだろう


2010.05.13
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ひもろぎの君 -例えば一匹狼の彼の生き方-


リナが"オレ"を見なくなってから。
4年。

どんなに呼びかけても彼女は答える事は無かった。
こんなに望んでいるのに。
初めて触れたいと願ったそれに無いものと扱われる事。
こんな苦痛が許されて良いものだろうか。

「ガウリイ・・・」

ぽつりと神木の下で、彼女が今日も泣いている。
泣かせてしまっている。

触れようと思ったのが過ちだったのだろう。
オレをオレで居させた憎しみや苛立ち、尖っていたものすべてが霧散した。

千年以上も憎んでいたあいつの顔も、忘れた。
何故憎まれていたのかも、忘れた。
とうに昔の話。
何も残っちゃいない。
だから、オレが残っている意味など無かったのだ。

諦めてしまいそうな自分と、ひとりぼっちのリナ。
どうしたらいいか分からずに、4年。

嗚呼、難しい事はもういいだろう?
オレにはもうどうにも出来ない事だ。
リナに触れたくて、気がついて欲しくていろんな事を試した。

名前をちゃんと読んだ、もう嬢ちゃんなど茶化すことも辞めた。
反省もした、誰も怨まないと誓える。
お前さんの言う事なら何でも聞こう。甘いものも、おいしいものも、何だって分けてやろう。
何もかもから守って、もう二度とそんな辛い顔をさせないと、伝えたかった。

力が弱体化したのか、岩ひとつ動かせやしない自分。
剣が自慢だった気がする。だがそれもどうでもいいだろう。
どうだっていい、彼女をただ泣かせるだけのオレへの苛立ち。
またあの黒い化け物になってしまのではと思う程―自分自身を怨み始めた。



何も"また"得られない世界に意味はあるのか?。



「ねぇあんた、あんた。そこのデカ犬」

彼女の姉のルナだ。
いかにも不機嫌そうにこちらへと仁王立ちしている。

「あたしの妹を泣かせないでって、言ったわよね?
居るのは分かってるのよ、この泥棒犬」
「泥棒犬・・・。って、見えてるのか?オレの事」
「悪いけど聞こえないし見えもしないわ。だけど―居るわね?」

「ああ、居る」
「知ってる?あの子将来巫女になるんですって。
あんたは神様だろうから、お嫁に行くって張り切ってるの。
だからあんた、早く神様になって頂戴。いいわね。」

ふいっと歩いてきた廊下をそのまま戻っていく。
神様になる?お嫁に?意味が分からずに彼女を追いかける。

「ちょっと待て、なんだ、それっ・・・!」

本当に聞こえないのか、返事は帰って来ないようだったが―

「ここの神社何祭ってると思う?あんたよ。少しは神社の中見なさい」



―村の者は彼を気の毒に思い、社を建てた。―

「・・・何だそりゃ。」

―以後彼らを見守り、この地を守り続け―

「守ってないぞ・・・お前らなんか」


神様と悪霊の定義など無かったのならば、答えは簡単な事だった。

憎しみで化け物になったのならば、
それが消えたからオレが在ってはならないなどと思い込み―
綺麗な彼女に触れてはならないと自らに枷をかけた。


オレは本当に、バカだった。


何にでもなれるのならば、オレは。

と、言うひもろぎの君のいつか1話追加してみようかなーって思ったのを
今更ながら思い出したので。
眠いけどカタカタしてみた。
たちきさんのリクエストひもろぎのわんわん絵と共に。
2010.12.2


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