すれいやーずくえすと その10
たまごのたまごのたまごの、そのたまご


ぽてぽてと場内を歩いていると、蹲った巨大な物体Aに出会った
物体Aというか魔王っぽいそれが背中を向けて、長い金髪を床に垂らしている

「ガウリイ?何やってんのよそんなとこで」

前に回りこんでみると、案の定涙目 今度は何かと内心呆れつつも問うてしまうあたし
ああ、やさしいぞあたし がんばれあたし
そんなむなしいエールが脳裏に浮かぶ、
・・・見えないけど後ろに応援団でも居るような気すらする

「た、助けてくれリナぁ」
「だからどうしたって聞いてるじゃない?お腹でも痛いの?」
「これ・・・」

彼が長いローブのすそから出したのは、メロンぐらいの謎の丸い物体
ぺとりと触ってみると、・・・じんわりと暖かい

「卵?」
「おう、魔物の卵なんだ。母親の産後の肥立ちが悪くてなぁ・・・」
「どこの世界に配下の魔物の子供の世話を見る魔王がいんのよ」
「ここ」

はふ、と息が漏れた
さすってみるとその卵の中には確かに何かが居るらしい
大方卵を温めながら歩こうと思ったけど、割りそうで怖くて歩けなくなったとかだろー・・・
難儀なヤツ、何故他の魔物に頼まなかったのか
お人好しなんだか、義理堅いんだか、あほなんだか・・・

「あんた、そのローブ脱いで」
「ええっ!?こんな所でか!?リナっ大胆すぎやしないか・・・」
「ち、違うからっ!この卵包んで居間まで行くのよっ」
「・・・あー了解」

なんだか残念そうなガウリイはほっといて、奪ったローブでぐるぐると卵を巻く
落としても割れないように厳重に、暖かいガウリイのローブごとそれを抱えた

「ところで、これ何の卵?」
「ああ、あいつの子供」

彼が窓の外を指差した
ひょいと覗いてみると、そこにはザングルスが薪を割っているところだった

「え゛」
「ザングルスはしゃいでるなー」

ひゅんっと彼の自慢のハウリングソードが風を切り裂き
ぱかんっと丸太を割った音がした
奥さん何?!、と聞こうと振り返ったのだが
にこにこと笑いながら、ガウリイが卵抱えるあたしを幸せそうに見つめていた

あたしもいつか卵を産むんだろーかと不安になったのは
ここだけの秘密。



RETURN