ひもろぎの君2




視界から彼女が外れると、どうにも不安になる
触れもしないだろ?
生きる世界がこんなに違うというのに
おいおい、オレって幼女趣味・・・あったのか?
それとも欲求不満・・・だとか?

学校へ出かける彼女に挨拶をし、帰るまでの間をオレは一人で過ごす
幼稚園とそう変わらないと思っていたのだが、数刻長引くようだった

今日、リナが泣いて帰ってきた

駆け寄りたかった
あの小さな頭を撫でてやりたかった
彼女もそれを望んでいた
木の幹にしがみ付きながら、オレの名を呼んでいたから

「リナっ、何か・・・あったのか?」
「っぐ・・・っふぇ・・・」
「リナ、大丈夫だ オレが居る」
「っふぇ・・・ぇ・・・」
「仕返し、してやるから?な?」
「・・・っ、いらないっそうじゃないっ!!」

リナの強さが好きだ
オレとは違う、その気高さが

「友達、できたの」
「うん」
「あんたをっ、教えたかったの」
「オレ?」
「あんたは、あたしの、大切なっ・・・っふぇ」

耐え切れず、大きな声で泣くリナ
気がついた母親が家から飛び出して来た
後に続いて彼女の姉も家から顔を出して
オレは二人に優しく撫でられる彼女を、ぼおっと眺めていた
ただ眺めていた

抱きしめられたまま泣きじゃくるリナを母親が抱き上げて家に帰っていく
ふと、彼女の姉に視線を向けると 目が合った

「ねえ、そこの悪霊さん あたしの妹をいじめないでくれる?」

驚いた、彼女の姉も化物が『見えた』とは
そんな素振りはなかった、視線すら感じなかったのに

「あの子を大切にしてくれないのなら、祓うわよ」
「すぐに忘れる」
「子供扱いしないで
 …貴方の方が子供だと思うわよ?」

そのまま体を翻し彼女の姉は玄関へと向かった
ぱたんと無機質なドアが閉まる音
オレはこの音があまり好きではない
ざわざわと枝が揺れた、そろそろ日が落ちる
まだ早いが寝てしまおうか


オレに何が守れた?
狡猾であれ、一匹の狼のように
気高い、ケモノであれ―――

「ちがうっ!!!ガウリイはあたしの大事な可愛いわんわんなの!!!」

―――リナの甲高い声が家から響き


オレは木から力なくぼてりと落ちた

1200年ぶりの土は、硬くて痛かった
じんじんと痺れが取れない
笑いが止まらなかった
涙も次から次に溢れてきて、ああなんだこれ

「オレはわんわんか・・・」
喉が痛い、顔が痛い、何もかもが痛い
姉に口答えをするとは珍しい、リナらしくもない
おしおきが怖いからと絶対逆らわない子だったろ?

「もういい!姉ちゃんなんてキライっ!!」

ばたんと、玄関のドアが開く音がして
小さな足音がこちらへ来るぱたぱたという音が聞えた
リナのお気に入りの赤い靴の足音だ

涙を拭いながら、息を切らせたリナが落ちているオレを見つけ
ぱああっと咲くように微笑んだ

「がうりー!」

抱きしめたくて、触れたくて、守りたくて
ついにオレは手を、伸ばした

溶けてしまってもかまわない



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