巫女つばさ文庫りなちゃん。

ひもろぎの君



「・・・あんたが、悪霊?」
「ま、そんなもんだ」

ぼんやりとした輪郭の彼は、ぴょこんとケモノの耳を動かした。
黒キツネ?犬?狼?何とも言いがたい
蒼い瞳が、闇夜にぎらぎらと光っていた



いろんなヤツを憎んだ
例えば、オレを殺したヤツ
例えば、オレを陥れたヤツ
例えば、オレを見殺しにしたヤツ
例えば…

気がつけばオレは化物になっていた
暴れ狂ったオレを畏怖する瞳の心地よいこと!
きっとオレは自分さえも、憎んでいた

此処にあるのは 憎しみと、怒りと、絶望。



「ね、あんたって・・・狐?」
「何だと思う?」
「何歳?」
「どれくらいだと思う?」

お気に入りの木の上で寝ていたオレにやけにかまってくるヤツが居る
知らない間に家が出来て、そこに人が住んでいるのは知っていた
こないだこの下で生まれたと思ったら、
すぐにびーびー泣きながら二本足で立って
オレの視線に気がついて指をさして「覗き!!」って怒ったり
尻尾に触りたいと、木に登ろうとして落っこちたり
辛い事があったら、根元で静かに座って独り言をぽつりと言ったり
そんなヤツがいる

このままでは憎しみで生きているオレは溶けてしまうのではないか?
消えてしまったオレを彼女は探すだろう
オレも彼女に会えなくなるのだろう
だから、此処からオレは動けない

いつか彼女は此処に、必ず登ってくる

どうしてオレは、あんなに他人を憎んでしまったのだろう
やれる事はあっただろう?
彼女のように、毎日を必死に何故生きなかった?
簡単にヒトである事を手放した?

「ガウリイー、何やってんのー?今日は」
「・・・昼寝」
「あんたってのんきねぇ、ちょっとぐらいーあたしみたいにがんばればいーのに」
「・・・これぐらいが丁度いいんだ」
「たまには木から下りて運動しなさいよ、そのうち木とくっついちゃうわよ?」

ああ、そうできたらどんなにいいだろうか
いいだろうか。



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