* すれいやーずくえすと *

むかーし、お姫様を誘拐したちょっぴり天然の魔王がいたそうな


 


すれいやーずくえすと 1


「は?『リナ姫ご成婚』ぱあてえ?」
「ああ、手紙届けに行ったんだが 引き出物配ってたぞ、ほい饅頭」
「あっ…あいつらわっ何やっとんじゃー!!」

誘拐されてしばし、魔王が勇者を撃退し続ける事度々
一昨日はかの有名な勇者王フィリオネルが激戦を繰り広げた
打撃は利かない、剣を通さぬ鋼の筋肉 何をどーやったらああなるんじゃ…
流石のガウリイも押されてしまった
危ない!っと思った時には 勝手に体が動いてて
その…えーと、お恥ずかしい事に その魔王をかばってしまったのである
なんでかは聞かないで欲しい

「あの馬鹿王子ね…」
「『お主らの愛 確かに見届けた〜!!』って感動して泣いてたっけ」

そうなのだ、あたしのこっそりとした趣味の魔法攻撃すら 彼には利かなかったのだ
火炎玉を体で弾くとわ…
魔王ですら「あれ、本当に人間か…?」と呆気に取られてたっけ
愛と正義が秘訣だとかがはがは笑って帰ってったけど…あのおっさん野放しでいーのか…?
何にせよその正義王子はあたしの城で愛を語らいでもしたのだろう
面白い事の好きなあの人達の事だからお祭騒ぎになっているようだ
後で窓から魔法をぶっ放して壊滅させようと思ふ

「で、手紙読んでもらったぞ」
「あんたの目の前で?!」
「オレは読んでないぞ?王様怒ってたなあ」
「…なっなっなっ」
「ほいこれ返事 で、リナは何て書いたんだ?」

やけにぐしゃぐしゃになった封筒を差し出し
魔王はにぱっと、これまたきょーあくな笑顔であたしに微笑んだ
中にあったのは『天然魔王は一発殴っといた』というとーちゃんの達筆な手紙
ほっ、と息が漏れた

「ガウリイ、いいって言ってくれたみたいよ」
「何をだ?」
「…あんたとの、その、ほら…結婚…とか?」

ガウリイの笑顔のレベルがあがった
あたしの防御力が 12ぐらい下がったよーな気がした


すれいやーずくえすと 2



ここに情けなく体育座りで川を見つめる ばかが一人

「どうしよう」

たまには仕事して来なさいっ!ついでにおつかいも頼んだわよといわれ
ちょうど召還したがってる奴が居たので、ちょっと近くの異世界まで出かける事になった

「おお!魔王様!貴方があの漆黒の王!」
「望みは…何だ?」
「私はこの世界が憎いっ!私を追い出したあいつらが!どうか地獄の苦しみを!」
「えーと…夕飯までには帰れるか?」
「…は?」

召還した男はしばらく色々喋っていた
じわじわといたぶりたいと言うので断った
そいつも「そうだな…魔王に頼ろうなどと間違っていたのかもしれん」とか言ってたからいいんだろう
そこまでは良かった
おつかいが何だったのか忘れてしまった
メモももらったはずなんだが、何故か見当たらない
呼び出した奴と一緒にしばらく探したんだがなあ…

ぱしゃんっと魚が跳ねた
きらきら光る水面
何故視界が歪んでいるのか
帰りたい
会いたい
でも怒られる
愛想ついて出てっちまったらどうしよう?
また一人に戻ったら、きっと耐えられない
きっと、リナの嫌いな『魔王』になるんじゃないのか?
何もかもを憎んでしまうだろう、あの男のように
そして誰にも救われない
勇者がオレを倒すまでは


べしっ

重みのあるものが頭の上に乗った音がした
何だろうとそれを降ろしてみると、ポケットにあるはずのオレの財布だった

「財布忘れてったわよ?だらしない魔王ねー?」
「りっ・・・」

こうして魔王は無事回収され、戻ってから怒られた
とても嬉しそうに、怒られた



すれいやーずくえすと 3 



紹介しよう、あの情けない背中にただならぬ哀愁を漂わせながら
一見迷子の成人男性(魔王)があたしの夫、ガウリイである

「いい?メモ持ったわね?」
「おうっ、えーと、たまねぎと、ひき肉と…」
「ピーマンよ」
「あまり好きじゃないんだが…」
「好きでも嫌いでもいいから、さっさと行って来いっ!」

ぐじぐじするガウリイを追い出し、城内の書庫掃除へと足を向けた
書庫、と言ってもかなりの量 数千冊を超える魔道書
代々の魔王が数千年守り続け、
中身も人間にしてみれば1冊だけで小さな城が買えるんじゃなかろーかという貴重品ばかりだ
毎日少しだけ掃除をし、めぼしいものを見つけては読みふける
その日は「人間のおちょくり方〜簡単な呪いのかけ方とその応用〜」を手に取った

どれほど集中していたのだろう、ふと視線を上げた
時計を見るとかなり入れ込んでしまっていたようだ、夕飯を作らなくてはと 本にしおりを挟んだ
ガウリイもそろそろ帰っただろう

「帰ってない?」
「はっ、魔王様はまだお帰りになられてません」

転送の間の門番が言うのだから、そうなのだろう
そのうち戻ってくるだろうと鷹をくくったが
待てども待てども彼は帰ってこなかった
あれほど夕飯までには帰るって約束したのに…
ダンっとまな板にレタスさんが叩きつけられた
いーわよさっさと食べちゃうから、材料足りないからメニュー変更しなくちゃね
これで二人分足りるのかしら?って、いないんだった
少し作り置きがあれば文句も言わないだろう、うん

…何かあったとか、ないわよね?

出かける支度をしていると、ふと視界にあってはならないものが目に入った
財布…忘れてやんのあいつ


そうして今に至るというわけである
散々心配させといて…賽の河原ごっこやっとんたんかい
魔王が川原で石積み上げてどーすんだっ!子供かおまいはっ!!

…子供、なのかもしれない
そんなにあたしが怒るの怖かった?
嫌われたくなかった?
でもねガウリイ、そんなとこでいぢけてても 何も変わらないのよ?
あたしの事そんなつまらない事で諦めちゃうのね 誘拐までしといて
大胆なんだか臆病なんだか…


「なあリナ、ひょっとして心配してくれたのか?」
「買い物のついでよ、ついで」
「異世界まで買い物に?」
「ここのピーマンはとっくべつにおいしいって知らないの?」
「…やっぱり入れるのか?」


財布を忘れた事 -50点
報酬を断った事 -100点
素直に帰ってこなかった事 -100点
メモをなくしたこと -200点
泣きながらピーマンを食べた事 +10点
ちゃんと帰ってきたこと +50点


すれいやーずくえすと 4 



キンッ…ギリッ!

刃と刃がこすり合う嫌な音が聞える
彼は今、強大な魔王と向き合っていた
噂では、微笑み一つで街を滅ぼし
指先一本で姫を攫い、軽く手招くだけで誰もが奴の支配下に置かれ
奴が望めばこの世界は一瞬で闇に落ちると言われている
漆黒の魔王―ガウリイ=ガブリエフ

「あ、今の悪くないぞ?腰を落しすぎてるなお前は」
「本気でっ!戦えっ!魔王っ!」

「んー」と考えながら、魔王は「盾いらないんじゃないのか?剣が重すぎると思うんだが」とか
「皮製にしたらどうだ?」だの…「マントってひらひらして好きじゃないんだよなあ」だの
なんて嫌味な奴なんだ

「ここはこう、流すだろ? その後の間をお前ならどうする?」
「っと…このまま切り上げるっ!」

キィン…と耳が痛くなる音
俺の剣は手元にはもう―無かった
殺される

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いつものごとく迎えに行ったあたし
目の前に、繰り広げられていたものは―――!

勇者らしき少年を剣指導するあほ魔王の姿でした
懐からあたしはスリッパを出すと、勢い良く魔王にクリティカルヒットを決めた

ぽてっと魔王はその場に崩れ落ちた
ふっ、悪が栄えた試しはないのよ
と、傍に居た勇者を見ると 彼は目を見開いて―

「あ、あんたが魔王の言ってた恐ろしい嫁さんか……っ くっ!今の太刀筋見えなかったっ!」

勇者は目の前が真っ暗になった

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リナが手際よく勇者の身包みを剥ぐ
ゴールドは半分も残さない、全額回収だ
リナ曰く、
「強くてニューゲームなんて今時流行らないのよっ!ささ、布の服一枚残らず剥ぐわよー♪」
だ、そうだ

「あ、剣は残してやってくれないか?」
「珍しーわねあんたがそんな事言うなんて」
「 筋がいいんだこいつ、きっと強くなるぞ」
「…勇者育成してどーすんのよ」
「いいじゃないか たまには」
「たまには?こないだだって似たような事してたじゃないっ!!」

リナが懐に手を入れるのを見て、オレは慌てて窓から飛び出した


後日、ある少年が城の門を「配下にしてくださいっ!」と言いながら門を叩いたのは
この城では良くある話なので、噂にもならなかった

すれいやーずくえすと 5 



『前略、リナ姫様』
その手紙は、几帳面な文字で綴られていた
あたしにしか読めない特殊なインクで書かれているそうだ
特許を取れば子々孫々永遠と生きていけそうな魔術だ

『アレとは元気にやってるか?大方公務を逃げ出してるのだろうが』
「あんた、部下に酷い事言われてるわよ」
「なあ、ゼル何だって?」

魔王神官と呼ばれる部下が居た
何故過去形なのかとゆーと、あたしが来る前にすでに勇者姫によって捕獲されたからだ
セイルーンは近隣諸国の中で秀でている国の一つだ
いつぞやガウリイを倒しかけた化物みたいな王子、あれこそがセイルーンの第一継承者フィリオネル
アメリアとは友人なのだが、あの子がどうやら引っ張って持ってってしまったらしい
この城はそんな頭のネジが抜けた奴しかいないのかと、呆れていたのだが そうではないようだ

「えーと…先月の儀式やったか?って書いてあるわよ」
「なんだそれ?」
「…やらないと気軽に暗雲が出せなくなるって」
「出してどーすんだ?」

この神官 かなり苦労をしたのでは…?と
いや、絶対した

『おやつは頻繁に与えないように 調子に乗る』
『夜は水か酒しか与えないように 間食するとキリがない』

「あんたはグレムリンかっ!!」
「魔王だぞ?一応」
「一応って…自信ないんかい」
「ちょっとな!」

妙な事で威張るあほはほっといて、続きを読み上げる

『一緒に送った菓子はセイルーンで一番の菓子職人のものだ』
『知らないと後々困るだろう、『待て』のやり方を書いておく』

…横を見ると、じっと包みを見つめる魔王がそわそわ待ち構えている

「ガウリイ、その箱 爆弾だから」
「ええっ!?そーなのか?!」
「うん、実は爆弾」
「そうなのかぁ…」

恨めしそうに箱を見つめるガウリイ なんだかかわいーぞ…

『触らせたくないものは、爆弾だとでも言っておけばしばらく触る事はない』
『触りそうだと思ったらすぐに言うようにしろ、何せ忘れっぽいからな』

「3歳児か……」

がくっと肩から力が抜けて、彼が苦労しただろう日々にあたしは心の中で涙を流した

「リナ?大丈夫か?何か嫌な事書いてたのか?」

覗き込んできた不安げな青い瞳
これからあたしがするだろう苦労を考えると、色々言ってやりたい気にもなったが

「あんたの事が心配だってさ」
「ああ、ゼルとは親友なんだ いいやつだろ?」

確かにね、でもちょっとキザったらしーわよね
えーと…、図書室の隠し部屋?!おおっ!

『それから 姫さんは知らないだろうが、アレは姫さんに長く片思いしてたから さぞかし幸せだろう』
『俺達は見てて胃がキリキリしたが、良い結果になったと思っておく』
『あまりいじめないでやってくれ 後始末に俺が困るからな』
『ちなみにこの手紙は自動的に消滅する 検討を祈る』

そこまで読むと、手紙からぽむっと煙が出て 手紙がボロボロに崩れ去った
バラバラとテーブルに落ちた紙片は、空気に溶けていくように 消えていく
手紙に自爆魔法って…トップシークレットかこれはっ!?

「リナ?顔赤いぞ?」
「こいつ、いー度胸してるわ…」

のほほんと話しかけるアレ。
すいません、あの、初耳なんですが…?こりはどーいう事なんでしょうか
誘拐する度胸の方がよっぽどじゃないの?
…やっぱし、この城には 頭のネジが一本抜けてるか歪んでる奴しかいなかったよーである

すれいやーずくえすと 6


「なあっ、ハート書いてくれよ」
「そんなくそはずかしーこと誰がするかっ!」

結局『ばか』とかかれたオムライスを目の前に 魔王が目を輝かせている
仮にも魔王なのだから横文字だらけの凝った料理とか生き血とか食うのかと思ってた事もあったが
案外好みはお子様向けメニューのようだった

色々与えて実験してみたのだが
チャーハンの上に旗を立てたりすると気に入ったのかポケットに旗をしまってたり
剣の形の爪楊枝を使ってみたところ、自然と買い溜めされるようになったり
くらげの形のゼリーを見たときは「崩すのがもったいない」と永遠と渋った
好き嫌いなど無いものと思い込んでいたのだが、意外な事にピーマンが嫌いらしい
混ぜるとすぐに察知するのが面白くて、一時期あたしの中でひっそりとしたブームになり
いかにピーマンを原型を留めずに気がつかせずに料理に混ぜるかという戦いがあったりもした
現在は「リナはオレが嫌いなのか?」とうるさいのでしばらくは休戦協定を結ぶ事となった

後に聞いたのだが、ピーマン畑を襲う特殊部隊があるとか
どーりで年を通して値段がやや高めだったのかとゆーと、こいつのせいだった
農家の人に迷惑だからやめろとゆーに、「やだ」の一点張りだった
そこまで恐れられるピーマンって一体…
手順さえ踏めば魔王封印ピーマンとか実るんじゃろーか

「ガウリイの一番好きな食べ物って何?」
「んー…」
「作れそうなら今度作ってあげるわよ?」
「リナの作るものなら何でもうまいぞ?」
「っ…、そーじゃなくて 種類よ種類」

ごはんつぶをつけながら もきゅもきゅと租借し、彼は少し頭を傾げ

「だって本当の事だぞ?」
「…あ、そ。…って!あたしのハムさん!」
「リナだってオレのタコさんウインナー取ったろ!」


食事を終えて、あたしは机の上でランプの明かりに照らされながら本を読む
振り返ると 食器を洗う魔王の背中が見えた
楽しそうに軽く結った髪が泳いでいる

「毎日オムライス?駄目よそんなの」
「えーっ…」
「駄目ったら駄目っ!飽きちゃうじゃないのそんなの」
「ハート書いてくれないのかあ?」

諦めてなかったんかい…
こんな事で喜ぶ魔王だなんて ほんとおかしーわ
…ちょっとかわいーけど

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今晩は何がいいだろ…蒲焼なんか作ってみよーかな
ぽてぽてと市場で買い物をしていると、卵とお米の安さに目を引かれた
あ、ひき肉も安い

「それがねぇ、豊作で困っちゃってるのよ」と市場のおばちゃん
「今朝の雨が降ってから 急にすくすくと育っちゃってね」
「あ、味は落ちてないわよ?むしろ深みが増したって評判なのよ?」

ひょっとして…まさかだけど
そーいや今朝手下どもが何かぱたぱたしてたよーな…

「おばちゃん、今日のおすすめって何?」
「卵と、米と、ひき肉とー、トマトかしら」

…すいませんひょっとしなくてもうちのていしゅのせいです

その日のオムライスには『あほ』と書かれた

すれいやーずくえすと 7



少し昔の話をしよう

あれはあたしが誘拐されて7日目の夜だった
あたしが逃げ出すのを不眠不休で見張っていた魔王が、力尽きた
いや、死んだんじゃなくて 部屋の入り口で寝こけてしまった
すぴすぴといびきが聞えたのでドアを開けてみたところ、安らかな眠りに入ったよーである
逃げ出すチャンスは今しかない
そーっと彼のでっかい体を跨いで、あたしはその場を後にした

暗い廊下を、そろ〜っと足音を消して歩く
石畳の回廊をあたしは魔術の明かりを出来るだけ搾って足元を照らて歩いている
やはりこの城も迷宮が用意されてるようだ、急いでここを離れなくては
彼が起きる前に…

「よぉ、お嬢ちゃん」
「誰っ!?」

暗闇の中に現れたのは、妙な帽子をかぶった魔術師なんだか剣士なんだか分からない奴だった

「なぁ、戻ってくれよぉ 無理意地はしたくねーんだ」
「うるっさいわね!出口どっちよっ!」
「教えるわけないだろ?なぁー、今ならまだ間に合う」
「なんであたしがあいつの機嫌取んなきゃいけないのよっ!
 あいつ四六時中にこにこしてるじゃないっ!ほっといてもどーにかなるでしょ!
 他からどんどん姫でも女王でも攫ったらいいのよっ!」
「…ははあ?それで怒ってるのか」

彼が急に止まった
仕掛けてくるつもり…?あたしは距離を取って呪文を口ずさもうと…

「魔王さんな、ああ見えて一途だぜ?悪い物件じゃないだろ?」
「何が言いたいの…?」
「あいつが機嫌悪いと俺らが大変なんだよ…頼むから戻ってくれ」

がくっとそいつはうな垂れて、おいおいと泣き出してしまった
なんだかぼそぼそと「ゼルが居たころはこんなに苦労しなかった」とか独り言を言い出した
彼は危ない人だったのだ、あたしはそう自分の中で綺麗に結論づけた

「そんなのあたしの知ったこっちゃないわ」
「お嬢ちゃんっ頼むからっ!あんただって見たくないだろ?世界の終わりを」
「せ、世界の終わりって そんな怖いの…?」
「か、考えてみろっ!毎晩夢に見ても知らないからなっ!!」

彼の悲しい笑顔が見えたような気がした

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戻ってみると魔王は起きていた
項垂れる彼から、恐ろしいぐらい低い声

「逃げなくていいのか?」

「やめとくわ」

「リナ」
「っわ!」

急に腕を引かれて、彼の膝に強引に座らされた
痛いぐらいに抱きしめてくる太い腕を、何故か怖いとは思わなかった

「あたしは何があっても捕まらないわ ここには自分の意思で居るの」
「…ほんとか?」
「ちゃんと捕まえなさい」
「言ってる事が滅茶苦茶だぞ?」
「あたしにもよくわかんない」

ここからじゃ顔が見えないけど、きっと魔王は情けない顔で笑ってる事だろう

勇者と戦って大怪我してまで あたしを逃がさない彼
あたしの城に何も要求しないのはどうして?
やりたいって言った事叶えてくれるのは誰の為?
あんたの事、信頼していいって思えるのは?

でもどうしたらいいか分からない
恋とか愛とか、本に載ってはいても 誰が教えてくれても分からなかったのよ
目の前にぽんと答えを出されてこれが恋ですだなんて、納得できる?
あたしはあたしの答えを見つけるわ
それまでちょっと待ってて欲しい、なんて都合が良過ぎるかな
こいつの事だからあほみたいに待つんだろーな…


長い沈黙
何も言わなくなったなと思ったら、すぅすぅと寝息が聞えて来た
抜け出すのもなんだか可愛そうな気がしたので
あたしも抱き枕のよーに抱きかかえられたまま眠る事にした

こうしてあたしは脱出の最初で最後のチャンスを不意にしてしまったのである

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「あんたの言ってた事やっと分かったわ ザングルス」
「何の事だ?」

あの時会った配下、ピーマン畑撲滅特殊部隊隊長とか なっさけない役職の彼に話しかけた
思えばこいつが声などかけなかったら、あたしは城から抜け出せたはずなのだ
ちょっぴし怨むぞ

「こないだ、あいつの溜め込んでたぴこぴこりなちゃんこれくしょんってやつ捨てたのよ」
「おい!そんな事したら…!!」
「…最近寝ようとしたら、うるうる目のガウリイが思い浮かぶのよね」
「…きついだろ」
「良心ってあたしにもあったんだなって ちょっぴし思った」
「それより、おい あまり長くこんな所に居ると魔王が怒るぞ」
「なんで?」
「魔王も苦労してるよーだな…ま、仲良くやってくれや!」

マントをひらひらとさせながら、彼は寄宿舎へと歩いていった
そして入れ替わるように、金髪のぽやぽや魔王の姿が見えた



そうそう、ついったーであまりにも喋りすぎる為 自粛用チャットを友人に用意して頂きました
ついったーって無理かもって人でちょっと話してみたかった人はちらっと覗いてみるとよいかもしれません
TL毎日流してごめんなさいすぎた
殴打されてもいいぐらい喋ってた
URLは左フレームにでもちゃきっと入れときます
ご協力くださった友人には心からお礼申し上げます
内容は主にガウリナとガウリナとガウリナです

もうだめだ僕の脳みそ破裂するんだと思った

すれいやーずくえすと 8



魔王神官の朝は早い

支度を終えるとまずは朝の自主訓練
朝食を食べてから、姫に学問を教えてから軽い散策、そして昼食
昼からは政治を代理で行っている王子の執務補佐に入る
謁見から事務までこなし、最近は代筆もするようになっている
夕方頃になると、彼が昔居た魔王城から手紙が届く
夕食後に返事を書いて特殊魔術で転送し
寝るまでの時間を彼は有意義に過ごしている
これが彼の いつもの1日だ

ただし捕虜の


彼はこの城の姫に「あなたのような人が悪だなんていけませんっ!」と誘拐されて数ヶ月
彼の仕える魔王から毎日手紙を受け取っている

『今日リナがな』

またか…
少しくせのある字がうきうきと文を綴っている
出だしは殆どこれだ、後に続くのが「どうしたらいい?」「かわいいだろ?」のどちらかだ
今までの統計では8割が問い、2割が自慢話だ

『オムライスにハートを書いてくれなかったんだが、どうやったら書いてくれると思う?』
「知るかっ!!!」

落ち着け、落ち着くんだ俺
いつもの事じゃないかと自分に言い聞かせながら 次の行を―

『ばかとか書かれてショックだ』
むしゃくしゃしたから

辛うじて読める斜線の入った文字
何をした ガウリイ
お前はやる事が極端なんだ、どうせ怒られたんだろう
胃がキリキリと痛み出したが彼は完読までのラストスパートに 意識を集中させ

『そっちは元気でやってるか?アメリアお世話になってるだろうから何か送った方がいいか?』
『しびれくらげとか』

ぷしゅっと気が抜けた
…食っていいのかそれは

『とりあえず送っておいた』

一緒に届いた小包が目に入った
神官はくっと指を曲げて、空に陣を描く
ぱさっと包装の紐がとけ、包装紙に切れ込みがぷつぷつと入る
念には念を、防御魔法も組むべきかと不安だったが、そこまではないだろう
白い清楚な紙の箱が見えた
…中に死んだしびれくらげが居ないとも限らないが…
彼は何かに祈るように、人差し指を下ろした


「わあっ!おいしそーなどらやきじゃないですか!ど〜したんですこれ」
「たぶん食えると思うぞ、お前にやる」
「一緒に食べませんか?ゼルガディスさんっ!」
「そうだな、頂くとしよう」

「その…帰りたい、ですか?」
「返したいのか?」
「いいえっ!貴方が正義の魂を宿し 悪の道から足を洗うまでっ!アメリアは諦めませんっ!!」
「そう簡単に折れんぞ?」
「抵抗は無意味ですよ?」

くつくつと笑いながら、彼は目を細めた

-----------------------------

『ガウリイへ
菓子は有難く頂いた
今度からはきちんと中身を手紙に書くようにしろ
俺は不安で探査の魔術までかけた

オムライスにハート、との事だが いつか書いてくれるだろう
材料が安いと思わず作ってしまうものだ
ヴルムグンに頼んで成長の泉の水を畑に撒いてやれ
間違っても人にかけるなよ

こちらは元気に捕虜をやっている
心配する事は無い
近隣の土地が乾いているようなので雨雲が欲しい、召還しておいてくれ 後はこちらで何とかする
あまり姫さんを困らせるなよ?逃げられても俺は知らんぞ』

「あんた、通信教育でもしてんの?いつも手紙書いてるけど」
「そんなもんだ」

後ろをちょろちょろと歩くリナが可愛らしい 思わず顔が歪む
気になるんだな、誰に手紙書いてるのか
今度教えてやろう、そうだ ゼルに彼女に手紙をくれるように頼んでみよう
…ちょっと嫌だが 彼女が安心するならその方がいい
リナは思い込みが激しいからなあ

「こないだみたいに箱に生きたくらげ入れて人に送るのやめなさいよね」
「おう」

ぱふっと封蝋がされて それはまたどこかの魔王神官の手に渡る事となる
干物のくらげと共に

それは神妙な顔で受け取りをされたが、大変おいしく頂かれたそうだった

すれいやーずくえすと 9



「ねえ、この城の魔王ってどこ行っちゃったの?」
「今頃どっか旅してると思うが…生きてるとは思うぞ?」

誰も居なくなった古城を、あたしと魔王はほうきやハタキを持って部屋を練り歩く
たまに思い出したように魔王はこの城を掃除しに行く
と言っても全体を掃除するのではない、ダンジョンは蜘蛛の巣だのコケだので荒れた感じがいい と彼は言う
男のロマンってよくわかんない…ばっちいだけだと思う
居住区の重要な部分だけでよいらしく、魔王はぱたぱたとほこりを払って楽しそうに掃除をしだした

「赤の魔王って、一時期は全土を掌握しかけたって言うじゃない」
「すごい昔らしーがな」
「大魔王レイマグナスね、絵本で読んだ事があるわ」
「先々代か?裁縫好きのいい奴だぞ?」
「えっ、赤の魔王って他にも居たの?」
「いい奴だったんだがなあ…誘拐されちまった」
「どこの誰が大魔王なんか誘拐すんのよ…ぽんぽん誘拐したりされたりあんたらの中でブームなんかっ!?」
「さあ?」

と、何時ものように正しいんだかいまいち疑わしい話を聞いてると
大広間の方からか、誰かの足音が聞えた

「ガウリイじゃねえか!」
扉の向こうから現れたのは黒髪の眼つきの悪いチンピラみたいなにーちゃん

「…えーと、覚えてるぞ?」
「いい加減俺の名前ぐらい覚えたらどーだ…?」

少し間を置いて、ガウリイはぽりぽりと頭をかきながら
ほんのり照れながら答えた
「覚えてるけど出てこないんだ」
「それを忘れてるってゆーんじゃねえかなあ…」

どうやら知り合いらしい、とりあえず可愛そうなチンピラAとしておこう
チンピラAはガウリイの背中をばんばん叩きつつ、嬉しそうに再開を喜び
ガウリイは元気だったか?と肩を組む
チンピラでも雇って自動掃除機能でもつけるんだろうか

「どうしたんだ急に?ここに居るなんて珍しいな」
「ミリーナが静かな所に行きたいって言うからよ」
「だからって自宅に連れ込むか?」
「分かったら早く出て行け 俺とミリーナのらぶらぶを邪魔するんじゃねえぞ?」

ガウリイに友達だなんて配下以外で始めてみたかもしんない
その場に居るのもなんだか邪魔するものね、と掃除を続けようと……

「あ、リナ こいつ『現赤の魔王』の人だ」
「名前…思い出してあげなさいよ ちょっと目が潤んでるわよあいつ」
「それから赤の人」
「赤の人じゃねえっ!」
「で、オレの嫁さんのリナだ」
「…は?この背も胸も…ちみっこいのがか?」

そこにあったガーゴイルの胸像を引っつかむと
あたしは力の限りそれを、目標へと放った

めきゅ、ぽて。

ごすっ、どたっ。


「何かありましたか?ルーク」

透き通るような綺麗な声

しまった!これじゃあたし強盗犯みたいじゃないっ!
目の前には倒れた赤の魔王とうちのばか魔王…ってあんた何当たってるのよ!?
焦っている間にも足音は近づいて―
あたしは証拠を隠す事が出来なかった

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「…恐ろしいガーゴイルが彼らに襲い掛かった、ってのはどう?」

彼女はミリーナと名乗った
床では魔王達が安らかな眠りについている
大きなたんこぶがガウリイに出来ていた あとで拗ねるだろーな…
どうやらガウリイに一度当たって、勢いを落さずに回転のかかった石像は赤の魔王のみぞおちに決まったようだった
本当に痛いと悲鳴も出ない時もあるんだなとあたしは学んだ
その大きな物音に何事かと駆けつけたそうだ

「気にしないでください、タフですから すぐに起き上がるでしょう」
「良かったわ、証拠隠滅に尽力を尽くすところだったわ」
「…冗談に聞えませんね」
「うん、割と本気」


「彼には苦労してます」
「どこも一緒ね…」
「私たちは夫婦じゃありません らぶらぶでもありませんよ」
休憩用に持ってきたおやつを食べながら、たまに床の死体を眺めつつお茶を薦めている

「…あんたも誘拐されたの?」
「いえ…そうですね。言うなれば―」

「3年程ストーカーされています」

「…埋めとく?」
「いえ、自分で解決します」

ふ、と 咲くように笑った花のような彼女がとても綺麗だった

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「ルークがな、やっと見つけた一筋の光だとか言ってたぞ」
「三年もよーやるわ…」

また旅立つ二人を見送りつつ あたし達は住み慣れた城へと帰路を進む
「三年…三年ねぇ。そんなによく片思い出来るもんだわ
 いい加減諦めたらいいのに」
「仕方ないだろっ!自然と目が追っちまうんだから」
「ガウリイ?」


もうしばらく掃除なんかしないっ!と拗ねた彼のご機嫌を取るのに あたしは酷く苦労する事となった まる




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